細菌のかたまり「プラーク」について
先月の豆知識に記載したアメリカ・ミシシッピー州テュレン大学のバス教授ですが、実は歯科医師ではなく医学部の教授でした。細菌学の教授で主にマラリヤ病原体の研究をしていたそうです。1941年に大学研究機関を退職すると、半分趣味のような形で口腔内の病原菌の研究を始めました。むし歯や歯周病は世界中の人を悩ませていましたが、それ以上にバス教授自身がむし歯・歯周病で悩んでいたそうです。歯科医師から歯ブラシの使用方法を教えてもらい、その通りにブラッシングしていたのですが病状の改善は芳しくなかったそうです。マラリヤの場合は蚊による伝染経路を研究することでマラリヤの予防をすることができました。その経験から、口腔内細菌の発育体系を知ることによりむし歯・歯周病のの進行を抑えたり予防をしたりができるはずと考えたのです。研究の結果口腔内細菌は、特にむし歯の場合直接歯の中に侵入して歯を溶かすのでなく。歯に強固にへばりついたプラークやバイオフィルムと呼ばれるものを作った後に病気を誘発することが、わかってきました。
実はこれら口腔内の病原菌は、唾液を介して移ります。生まれたての赤ちゃんの口の中は基本的に悪い細菌はいないのですが、主にお母さんの使った食器などから感染してしまうものと考えられています。プラークの成り立ちですが、まず生えてきた歯のの表面には唾液が付着します。この唾液の中にはわずかなたんぱく質が含まれ、それが薄い膜となり歯の表面を覆います。この状態ではまだ細菌の付着はありません。時間の経過とともに点々と細菌が住み着き重なりあい、増殖し広がりながら、厚みも増していきます。このようにしてプラークは形成されるのです。プラーク中の各種細菌の活動については、不明な点もありますが本来、歯や歯肉に害の出ない細菌も多く含まれます。これを日和見菌といいます。前述したように日和見菌は悪さをしない菌なのですが、プラークが形成され病原菌と一緒になると同じように悪さをし始めてしまうのです。ここに日和見菌の名前の由来があるのです。もしかしたら人間社会も同じようなものかもしれないですね。そしてさらに厄介なことに、この細菌協同組合は成熟してくると表面をバイオフィルムという膜で被覆して外からの攻撃をはね返してしまうのです。外からの攻撃とは抗菌薬や抗生物質です。ただこれらの攻撃には抵抗するのですが、細菌の栄養となる砂糖は簡単に通ることができます。栄養を摂った細菌は歯を溶かす酸をだしながら拡大していくのです。バス教授はこのあたりのメカニズムを解明したことにより、後の予防歯科に多大な影響を与えたのでした。
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